スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

英語で小泉八雲『じきにんき(食人鬼)』(3)

夢窓国師は昨夜見たことを話します。

Then Muso told of the dim and awful Shape that had entered the death-chamber to devour the body and the offerings. No person seemed to be surprised by his narration; and the master of the house observed:--


・dim=ぼんやりとした
・chamber=部屋
・observe=意見を述べる

それから、夢窓国師はぼんやりとした、しかし恐ろしい影が遺体置き場の部屋に入ってきて、死体とお供物をむさぼり食ったことを話しました。しかし、それを聞いても誰も驚いた様子ではありません。家の主人が言いました。


"What you have told us, reverend Sir, agrees with what has been said about this matter from ancient time."
Muso then inquired:--
"Does not the priest on the hill sometimes perform the funeral service for your dead?"
"What priest?" the young man asked.
"The priest who yesterday evening directed me to this village," answered Muso. "I called at his anjitsu on the hill yonder. He refused me lodging, but told me the way here."


・yonder=〈古〉あそこの[に]


「お坊様、あなた様がおっしゃったことは、このことについて昔から言われていることとまったく同じです」
夢窓国師は尋ねました。
「丘の上の僧侶は、あなたがたの中に死人が出たとき、葬式をすることはないのですか?」
「どこの僧侶ですか?」と若者が聞きました。
「昨晩、私にこの村への道を教えてくれた人です」と夢窓国師は答えました。「向こうに見える丘にある、その僧侶の庵室を訪ねました。私を泊めてはくれませんでしたが、ここへの道を教えてくれたのです」


はて、どうも話がかみ合わない…

The listeners looked at each other, as in astonishment; and, after a moment of silence, the master of the house said:--
"Reverend Sir, there is no priest and there is no anjitsu on the hill. For the time of many generations there has not been any resident-priest in this neighborhood."


・many generations=何代にもわたった
・resident=常駐の、居住している

その話を聞いていた人たちは驚いた様子で顔を見合わせました。少しの間沈黙が続きましたが、家の主人がこう言いました。
「お坊様、丘の上には僧侶も庵室もありません。もう昔から何代にもわたって、この近所に住んでいる僧侶はいないのです」


Muso said nothing more on the subject; for it was evident that his kind hosts supposed him to have been deluded by some goblin. But after having bidden them farewell, and obtained all necessary information as to his road, he determined to look again for the hermitage on the hill, and so to ascertain whether he had really been deceived. He found the anjitsu without any difficulty; and, this time, its aged occupant invited him to enter. When he had done so, the hermit humbly bowed down before him, exclaiming:--
"Ah! I am ashamed ! -- I am very much ashamed! -- I am exceedingly ashamed!"


・host=〔客をもてなす〕主人、ホスト◆迎え入れた客を、飲食物を提供してもてなす人
・delude=〔人を〕だます、欺く
・goblin=悪鬼
・bid farewell=いとまを告げる
・look for~=~をさがす
・hermitage=隠者の住処
・deceive=人を欺く
・aged=老いた
・occupant=居住者
・hermit=隠者、隠遁者
・humbly=つつましく、恐れ入って
・bow down=おじぎをする

夢窓国師はもうそのことについて話すのをやめた。なぜなら、親切にもてなしてくれた人たちが、自分のことを悪鬼にでもだまされたのだろうと思っていることがはっきりしたからだ。しかし、みんなに暇を告げ、これから行く道について必要なことはすべて教えてもらった後、丘の上の庵室をもう一度探して、本当に騙されたのかを確かめることにした。庵室は容易に見つかり、今度は、年老いたその庵室の住人は夢窓国師を家に招き入れた。そうしてから、その隠者は恐れ入った様子で夢窓国師の前で頭を下げて叫んだ。
「ああ、なんと恥ずかしい!まったく恥ずかしい!本当に恥ずかしい!」


"You need not be ashamed for having refused me shelter," said Muso. "you directed me to the village yonder, where I was very kindly treated; and I thank you for that favor.


・shelter=家、避難所
・favor=親切な行為


「私を泊まらせなかったことを恥ずかしいとおっしゃるには及びません」と夢窓国師は言いました。「あそこの村への道を教えてくださったし、そこで私は大変親切にしてもらいました。だから大変あなたに感謝しているのです」


"I can give no man shelter," the recluse made answer; -- and it is not for the refusal that I am ashamed. I am ashamed only that you should have seen me in my real shape,-- for it was I who devoured the corpse and the offerings last night before your eyes... Know, reverend Sir, that I am a jikininki, [1] -- an eater of human flesh. Have pity upon me, and suffer me to confess the secret fault by which I became reduced to this condition.


・recluse=隠遁者
・flesh=肉
・Have pity upon=~を憐れむ
・suffer=〈古〉~を許す
・reduce=~を(…の身分に)落とす


「私は誰にも宿を貸すことはできません」と隠者は答えた。「それに私が恥じているのは宿を貸さなかったことではないのです。私が恥ずかしいと思っているのは、あなたが私の本当の姿を見てしまったこと、ただそれだけなのです。実は、昨夜、あなたの目の前で死体とお供物をむさぼり食ったのは私です…お坊様、私は食人鬼、つまり人肉を食べる者です。私を憐れんでください。そして、どうか私がこのような身に落ちぶれてしまった原因の秘密の過ちを告白することをお許しください」


"A long, long time ago, I was a priest in this desolate region. There was no other priest for many leagues around. So, in that time, the bodies of the mountain-folk who died used to be brought here,-- sometimes from great distances,-- in order that I might repeat over them the holy service. But I repeated the service and performed the rites only as a matter of business; -- I thought only of the food and the clothes that my sacred profession enabled me to gain. And because of this selfish impiety I was reborn, immediately after my death, into the state of a jikininki. Since then I have been obliged to feed upon the corpses of the people who die in this district: every one of them I must devour in the way that you saw last night... Now, reverend Sir, let me beseech you to perform a Segaki-service [2] for me: help me by your prayers, I entreat you, so that I may be soon able to escape from this horrible state of existence"...



・desolate=荒れ果てた
・league=〔距離の単位の〕リーグ◆古代ケルト社会に端を発するとされる、人間が1時間で歩ける伝統的な距離の単位で、西ヨーロッパとラテン・アメリカで広く用いられた。ケルト時代の1.4マイルから徐々に長くなり、3マイル(法定マイルで約4.8km、カイリで4.8km)になった。
・for many leagues around=周囲何リーグにもわたって:日本の昔のお話なので「何里にもわたって」
・rite=儀式
・as a matter of business=商売として
・impiety=不信心
・beseech=〈文〉(人)に懇願[嘆願]する
・I entreat you=お願いですから

「ずっと昔、私はこの荒れ果てた土地の僧侶でした。このあたりには何里にもわたって、ほかに僧侶はいませんでした。だから、その頃は、この山に住む人たちが死ぬとここへ遺体が運ばれてきました。時には、本当に遠くからもです。その遺体のために宗教的な儀式を私にしてほしいからです。でも私はただ単に仕事としてそれを繰り返しているにすぎませんでした。その聖なる仕事によって得ることができる食べ物や衣類のことだけしか頭になかったのです。この不信心のために、私が死んですぐ生まれ変わってこの世に来た時は食人鬼の姿でした。その時から、私はこのあたりで死んだ人たちの死体を食べざるを得ないことになり、昨夜、あなたがご覧になった通り、すべての死体をむさぼり食うということになってしまっているわけです。それで、お坊様、どうか私のために施餓鬼の供養をしていただけないでしょうか。あなた様の祈りで私を助けてください。どうかお願いですから、この恐ろしい在世の姿から抜け出させてください」


No sooner had the hermit uttered this petition than he disappeared; and the hermitage also disappeared at the same instant. And Muso Kokushi found himself kneeling alone in the high grass, beside an ancient and moss-grown tomb of the form called go-rin-ishi, [3] which seemed to be the tomb of a priest.


・No sooner~than…=~するやいなや…
・petition=嘆願
・moss=苔
・form=外形、構造
・go-rin-ishi=五輪塔のこと。密教で説く五大を表す五つの形から成る塔。地輪(四角)・水輪(円)・火輪(三角)・風輪(半月形)・空輪(宝珠形)の順に積み上げる。各面に五大の種子(しゆじ)を刻む。平安中期以後、供養塔として用い、鎌倉以後、墓標として広く用いられた。五輪。五輪卒塔婆。法界塔(ほつかいとう)

隠者がこの嘆願の言葉を言うや否や、その姿も庵室も消え失せた。気がつくと、夢窓国師は丈の高い草の中で一人で跪いていた。そして、その横には、僧侶の墓と思われる、古い苔蒸した五輪石と言われる形の墓が立っていたのである。


[脚注]
[1]  Literally(文字どおり), a man-eating goblin. The Japanese narrator gives also the Sanscrit term, "Rakshasa;" (古代インド神話における鬼神、性別があり、男性を羅刹娑らくしゃさ 女性を羅刹私らくしゃしという。悪魔の類、無信心な類、夜間に墓地などに出没して人を食べる類、と三ランクある)but this word is quite as vague as jikininki, since there are many kinds of Rakshasas. Apparently the word jikininki signifies(意味する)here one of the Baramon(バラモン教)-Rasetsu羅刹、人肉を食べる暴悪な鬼の総称)-Gaki(餓鬼、生前の悪業の報いで、餓鬼道に落ちた亡者、体はやせ細り、のどは針のように細く、また、手にとった食物が火に変わってしまうため常に飢えに苦しんでいるとされる),-- forming the twenty-sixth class of pretas(プレタ、ヒンドゥー教で祖霊の意味だが、後に極楽へ行けない亡者・餓鬼とされたenumerated(数えられる) in the old Buddhist books.
[2]  A Segaki-service is a special Buddhist service performed on behalf of beings supposed to have entered into the condition of gaki (pretas), or hungry spirits. For a brief account(説明) of such a service, see my Japanese Miscellany(『日本雑記』).
[3]  Literally, "five-circle [or five-zone] stone." A funeral monument(墓石) consisting of five parts superimposed(重ね合わせた、多層の),-- each of a different form,--symbolizing the five mystic(神秘的な) elements: Ether(エーテル、宇宙空間に存在し光を伝える働きをすると考えられていた化学物質), Air, Fire, Water, Earth.


[参考]【施餓鬼】=盂蘭盆(うらぼん)に寺などで、餓鬼道に落ちて飢餓に苦しむ無縁仏や生類(しょうるい)のために催す読経・供養。施餓鬼会(え)。

うちの菩提寺でも八月のお盆にこのお施餓鬼供養をします

これで"JIKININKI"を終わります。

関連記事
スポンサーサイト

トラックバック一覧

コメント一覧

コメントの投稿

名前

タイトル

メールアドレス

URL

本文

パスワード

非公開コメント管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。