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英語で小泉八雲『耳なし芳一』(9)

原作は著作権フリーのThe Project Gutenberg、日本語訳は青空文庫、戸川明三訳


住職さんがお経を書いてくれることになって・・・


Before sundown the priest and his acolyte stripped Hoichi: then, with their writing-brushes, they traced upon his breast and back, head and face and neck, limbs and hands and feet,-- even upon the soles of his feet, and upon all parts of his body,-- the text of the holy sutra called Hannya-Shin-Kyo. When this had been done, the priest instructed Hoichi, saying:--
"To-night, as soon as I go away, you must seat yourself on the verandah, and wait. You will be called. But, whatever may happen, do not answer, and do not move. Say nothing and sit still -- as if meditating. If you stir, or make any noise, you will be torn asunder. Do not get frightened; and do not think of calling for help -- because no help could save you. If you do exactly as I tell you, the danger will pass, and you will have nothing more to fear."


・acolyte=【キリスト教】(儀式での)侍者、伴僧、助手:この場合は、住職に仕える人、あるいは修行僧でしょうか。
・strip=~を裸にする
・writing-brush=毛筆
・trace=【他動】 (線・文字・図などを)引く
・breast=胸
・limb=手足
・sole=足の裏
・text=文章
・sutra=【名】 《ヒンドゥー教・仏教》経典
・Hannya-Shin-Kyo=【般若心経】 大乗仏教の経典。一巻。空(くう)の思想など般若経の精要を簡潔に説く。サンスクリット本二種、漢訳本七種があり、日本では玄奘訳のものが流布。摩訶般若波羅蜜多心経。般若波羅蜜多心経。心経。
・ instruct=【他動】 ~に(…について)指示する、~に教える
・verandah=縁側
・as if meditating=as if you are meditating
・meditate=【自動】 めい想する、黙想する
・stir=動く
・you will be torn asunder=バラバラに引き裂かれてしまうだろう
・get frightened=おじけづく
・call for help=助けを呼ぶ、助けを求める
・do exactly as I tell you=全く私の言ったとおりにする

日没前住職と納所とで芳一を裸にし、筆を以て二人して芳一の、胸、背、頭、顔、頸、手足――身体中どこと云わず、足の裏にさえも――般若心経というお経の文句を書きつけた。それが済むと、住職は芳一にこう言いつけた。――
『今夜、私が出て行ったらすぐに、お前は縁側に坐って、待っていなさい。すると迎えが来る。が、どんな事があっても、返事をしたり、動いてはならぬ。口を利かず静かに坐っていなさい――禅定に入っているようにして。もし動いたり、少しでも声を立てたりすると、お前は切りさいなまれてしまう。恐(こ)わがらず、助けを呼んだりしようと思ってはいかぬ。――助けを呼んだところで助かるわけのものではないから。私が云う通りに間違いなくしておれば、危険は通り過ぎて、もう恐わい事はなくなる』


さあ、これで書き忘れたところはないのでしょうか・・・


After dark the priest and the acolyte went away; and Hoichi seated himself on the verandah, according to the instructions given him. He laid his biwa on the planking beside him, and, assuming the attitude of attitude of meditation, remained quite still,-- taking care not to cough, or to breathe audibly. For hours he stayed thus.

Then, from the roadway, he heard the steps coming. They passed the gate, crossed the garden, approached the verandah, stopped -- directly in front of him.

"Hoichi!" the deep voice called. But the blind man held his breath, and sat motionless.
"Hoichi!" grimly called the voice a second time. Then a third time --savagely:--
"Hoichi!"
Hoichi remained as still as a stone,-- and the voice grumbled:--
"No answer! -- that won't do!... Must see where the fellow is."...

・according to the instructions given him=与えられた指示通りに
・laid=lay(~を横たえる、~を置く)の過去形
・planking=【名】 厚板材、板張り
・assuming:分詞構文、assume=(ある態度を)取る、~のふりをする
・meditation=【名】 めい想、黙想
・still=【形】 静止した、じっとした、動かない
・audibly=人に聞こえるように
・taking care not to cough, or to breathe audibly:分詞構文、notはto breatheにもかかる。意味は「咳をしないように、息づかいが聞こえないように気をつけて」
・thus=【副】こんなふうに、上に述べたように
・roadway=道路、道
・step=【名】 足の運び、歩み
・directly=【副】ちょうど
・deep voice=太い声、低い声
・held his breath→hold his breath=息を殺す[止める・ひそめる・詰める]
・motionless=【形】 動かない、じっとしている
・sit motionless:動詞+補語(形容詞)の文型<例>He sat straight.(彼は姿勢を正して座っていた)
・grimly=【副】 厳格に
・a second time=もう一度
・savagely=乱暴に
・as still as a stone=まるで石になったかのようにじっとして
・grumble=うなるように言った
・that won't do=だめだ
・fellow=【名】男、やつ、野郎

日が暮れてから、住職と納所とは出て行った、芳一は言いつけられた通り縁側に座を占めた。自分の傍の板鋪の上に琵琶を置き、入禅の姿勢をとり、じっと静かにしていた――注意して咳もせかず、聞えるようには息もせずに。幾時間もこうして待っていた。
 すると道路の方から跫音のやって来るのが聞えた。跫音は門を通り過ぎ、庭を横断り、縁側に近寄って止った――すぐ芳一の正面に。
『芳一!』と底力のある声が呼んだ。が盲人は息を凝らして、動かずに坐っていた。
『芳一!』と再び恐ろしい声が呼ばわった。ついで三度――兇猛な声で――
『芳一』
 芳一は石のように静かにしていた――すると苦情を云うような声で――
『返事がない!――これはいかん!……奴、どこに居るのか見てやらなけれやア』……


さあ、いよいよ何かが芳一のところにやって来ました・・・


There was a noise of heavy feet mounting upon the verandah. The feet approached deliberately,-- halted beside him. Then, for long minutes,--during which Hoichi felt his whole body shake to the beating of his heart,-- there was dead silence.


At last the gruff voice muttered close to him:--


"Here is the biwa; but of the biwa-player I see -- only two ears!... So that explains why he did not answer: he had no mouth to answer with --there is nothing left of him but his ears... Now to my lord those ears I will take -- in proof that the august commands have been obeyed, so far as was possible"...


At that instant Hoichi felt his ears gripped by fingers of iron, and torn off! Great as the pain was, he gave no cry. The heavy footfalls receded along the verandah,-- descended into the garden,-- passed out to the roadway,-- ceased. From either side of his head, the blind man felt a thick warm trickling; but he dared not lift his hands...


・mount=【他動】~に上がる[登る]
・deliberately=慎重に、ゆっくりと
・halt=止まる
・during which=during the long minutes
・to the beating of his heart=心臓の鼓動にあわせて
・dead silence=全くの静寂
・gruff=【形】 しわがれ声の、どら声の
・close to=~の近くで
・of the biwa-player I see -- only two ears=I see only two ears of the biwa-player
・that= I see only two ears of the biwa-player
・that explains why~=それで~というわけだ(~の理由がわかった)
・mouth to answer with:mouthは前置詞withの目的語
・there is nothing left of=~の面影[痕跡]は全く残っていない
・but his ears=except his ears
・to my lord those ears I will take=I will take those ears to my lord
・lord=主人
・in proof that=~の証拠として、~を立証するために
・august=荘厳な、尊い
・so far as was possible=できる限りで
・torn off=tear off(引きちぎる)の過去分詞形
・Great as the pain was=Though the pain was great
・footfall=足音、足取り
・recede=遠ざかる
・descend=降りる、下りる
・pass out=出て行く
・cease=終わる、止む、止まる
・trickling=滴り落ちるもの
・thick=粘り気が強い、ねばねばした
・dare not=~しようと思わない

縁側に上る重もくるしい跫音がした。足はしずしずと近寄って――芳一の傍に止った。それからしばらくの間――その間、芳一は全身が胸の鼓動するにつれて震えるのを感じた――まったく森閑としてしまった。
 遂に自分のすぐ傍(そば)であらあらしい声がこう云い出した――『ここに琵琶がある、だが、琵琶師と云っては――ただその耳が二つあるばかりだ!……道理で返事をしないはずだ、返事をする口がないのだ――両耳の外、琵琶師の身体は何も残っていない……よし殿様へこの耳を持って行こう――出来る限り殿様の仰せられた通りにした証拠に……』
 その瞬時に芳一は鉄のような指で両耳を掴まれ、引きちぎられたのを感じた! 痛さは非常であったが、それでも声はあげなかった。重もくるしい足踏みは縁側を通って退いて行き――庭に下り――道路の方へ通って行き――消えてしまった。芳一は頭の両側から濃い温いものの滴って来るのを感じた。が、あえて両手を上げる事もしなかった……


Before sunrise the priest came back. He hastened at once to the verandah in the rear, stepped and slipped upon something clammy, and uttered a cry of horror; -- for he say, by the light of his lantern, that the clamminess was blood. But he perceived Hoichi sitting there, in the attitude of meditation -- with the blood still oozing from his wounds.


"My poor Hoichi!" cried the startled priest,-- "what is this?... You have
been hurt?


At the sound of his friend's voice, the blind man felt safe. He burst out
sobbing, and tearfully told his adventure of the night.


"Poor, poor Hoichi!" the priest exclaimed,-- "all my fault! -- my very
grievous fault!... Everywhere upon your body the holy texts had been
written -- except upon your ears! I trusted my acolyte to do that part of the work; and it was very, very wrong of me not to have made sure that he had done it!... Well, the matter cannot now be helped; -- we can only try to heal your hurts as soon as possible... Cheer up, friend! -- the danger is now well over. You will never again be troubled by those visitors."


With the aid of a good doctor, Hoichi soon recovered from his injuries.
The story of his strange adventure spread far and wide, and soon made him famous. Many noble persons went to Akamagaseki to hear him recite; and large presents of money were given to him,-- so that he became a wealthy man... But from the time of his adventure, he was known only by the appellation of Mimi-nashi-Hoichi: "Hoichi-the-Earless."


・hasten=急いで行く
・in the rear=裏手の
・step=歩く、歩を進める
・clammy=【形】(湿っぽくて・冷たくて・ベトベトした粘着性があって)気持ち悪い
・for he say:sayの時制がおかしいと思うが、青空文庫の戸川明三氏訳は、「それは提灯の光りで、そのねばねばしたものの血であった事を見たからである」になっている。"say"は"saw"の誤りなのかなあ?
・clamminess=べっとりして冷たいもの
・perceive=【他動】 ~に気付く
・ooze=じくじく流れ出る
・feel safe=安心できる、安らかな気持ちになる
・burst out=burst out(【句動】 突然~しだす、急に~し始める)の過去形
・sob=すすり泣く
・tearfully=涙ながらに
・all my fault=すべて私のせい、全部自分が悪い
・grievous=【形】嘆かわしい、ひどい
・acolyte=侍者、助手
・the matter cannot now be helped=今となってはどうしようもない
・spread=spread(広まる、広がる)の過去形
・far and wide=遠くまで広がって、至る所に、広範囲に
・appellation=【名】名称、呼称

日の出前に住職は帰って来た。急いですぐに裏の縁側の処へ行くと、何んだかねばねばしたものを踏みつけて滑り、そして慄然(ぞっ)として声をあげた――それは提灯の光りで、そのねばねばしたものの血であった事を見たからである。しかし、芳一は入禅の姿勢でそこに坐っているのを住職は認めた――傷からはなお血をだらだら流して。
『可哀そうに芳一!』と驚いた住職は声を立てた――『これはどうした事か……お前、怪我をしたのか』……
 住職の声を聞いて盲人は安心した。芳一は急に泣き出した。そして、涙ながらにその夜の事件を物語った。『可哀そうに、可哀そうに芳一!』と住職は叫んだ――『みな私の手落ちだ!――酷い私の手落ちだ!……お前の身体中くまなく経文を書いたに――耳だけが残っていた! そこへ経文を書く事は納所に任したのだ。ところで納所が相違なくそれを書いたか、それを確かめておかなかったのは、じゅうじゅう私が悪るかった!……いや、どうもそれはもう致し方のない事だ――出来るだけ早く、その傷を治(なお)すより仕方がない……芳一、まア喜べ!――危険は今まったく済んだ。もう二度とあんな来客に煩わされる事はない』
 深切な医者の助けで、芳一の怪我はほどなく治った。この不思議な事件の話は諸方に広がり、たちまち芳一は有名になった。貴い人々が大勢赤間ヶ関に行って、芳一の吟誦を聞いた。そして芳一は多額の金員を贈り物に貰った――それで芳一は金持ちになった……しかしこの事件のあった時から、この男は耳無芳一という呼び名ばかりで知られていた。



芳一は耳を取られてしまいましたが、琵琶法師として名を知られ、吟誦のお礼に多額の金を手にすることになったのです。
下関TVのサイトに”赤間神宮境内にある「芳一堂」は、昭和32年(1957)に建立され、その中に祀られている芳一像は、山口県防府市出身の彫刻家、押田政夫氏の作です。赤間神宮では今年も7月15日に耳なし芳一琵琶供養祭が営まれます”という記述があります。

これで「耳なし芳一」のお話はおしまい。長い間お付き合いいただきありがとうございました。

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